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脳由来神経栄養因子(BDNF)の増やし方|脳の病気との関係

更新日:

「モノアミン仮説」について調べたページで、「脳由来神経栄養因子(BDNF)」の不足によって、神経が成長できずにモノアミンが減るという説を取り上げました。

モノアミンは、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質の総称で、精神疾患と密接な関係があると示唆されています。言ってしまえば、その不足が心の病気の原因ではないか、ということ。

このモノアミンを正常な量に戻すには、脳由来神経栄養因子が要ることを受け、その増やし方を調べてみたのが当ページです。

結論だけ書けば、30分間の自転車運動を週に3回、8週間やれば効果がみられるというもの。漕ぎ方は6割くらいの力でいいです。満腹になるまで食べる人、間食するクセがある人は、それを直して空腹でいる時間を増やすことが大事。

脳由来神経栄養因子とは

脳由来神経栄養因子は、brain-derived neurotrophic factor の頭文字を取り、BDNFと表記される分泌性タンパク質です。
分泌性タンパク質は、細胞が作るタンパク質のうち、細胞外に分泌され、他の細胞または自らが食するものになります。言うなれば、神経細胞の栄養。
その受容体は、TrkBと呼ばれています。

神経栄養因子は、神経細胞の発生や成長、維持や再生を促進させる物質の総称です。

神経細胞に種類があるように、神経栄養因子にも作用する神経細胞の違いがあります。
例えば神経成長因子(NGF)は、末梢神経系でアドレナリンを神経伝達物質にし、交感神経の細胞に対して作用しますが、中枢では大脳基底野のアセチルコリンを持つ神経細胞に作用します。

第3の因子が発見されてからは、NGFはNeurotrophin1(NT-1)、BDNFはNT-2とも呼ばれています。現在ではNT-4、5まで発見されていますが、このページではBDNFだけを取り上げています。

BDNFは、中枢神経系で最も主要な神経栄養因子なので、脳内に広く分布しています。
中でも、記憶や学習を司る脳の部位で活性化するので、その減少は先の能力に影響を与える可能性が大。

うつ病やアルツハイマー病患者の脳内で、BDNFの発現量が減少しているのが確認されていますし、血中BDNF濃度の低下も見られます。

一方で、運動が脳内のBDNFを増加させ、学習や記憶のパフォーマンスを改善させることが、動物実験により報告されてます。

運動でBDNFを増やす

運動でBDNFを増やすことに言及しているのが、九州大学健康科学センターの研究紀要「健康科学」第31巻、『脳由来神経栄養因子(BDNF)の役割と運動の影響』です。

そこには、運動によって脳内の様々な領域、骨格筋でBDNFやTrkB受容体の発現が高められると、多くの動物実験で確認されているとあります。

急性運動の影響

疲労困憊に至る高強度の運動の2時間後にBDNFmRNA、タンパク質ともに増加したという報告があります。mRNA(伝令RNA)は、DNAから遺伝情報っをコピーし、特定のタンパク質を合成するもの。

一方で、1回の運動ではBDNFタンパク質は増加しないという報告も……。

血中BDNFは一時的に増加し、運動中止後すぐに安静時水準まで戻るそうです。

短期トレーニング

1週間以下のトレーニングでは、脊髄及びヒラメ筋におけるBDNFmRNA、タンパク質発現は運動2時間後に増加することが確認されています。

脳内の発現に関しては、高まるとする報告が多いものの、脳内はBDNFmRNAの分解速度が速いため、測定感度や技術の差異が影響している可能性があるそうです。

長期トレーニング

2週間以上の長期トレーニングでは、海馬(記憶を司る脳の部位)のBDNFのタンパク質、mRNAともに発現が増加したそうです。

血中BDNFの変化に関しては、2つ結果があります。

運動する習慣が無い中高年を対象に、レジスタンス運動を週3回、10週間行ったものの、BDNFの水準は変化しませんでした。
レジスタンス運動は、筋トレのこと。筋肉に繰り返し抵抗をかけるトレーニングです。

多発性硬化症患者と健常者を対象に、30分間の自転車運動を週に3回、8週間のトレーニングを行った結果、多発性硬化症患者は4週目に増加、8週目にはベースラインに戻っています。健常者には有意な変化が認められなかったそうです。

この自転車運動のレベルは、体重あたりの最高酸素摂取量(VO2peak)が60%という強度になります。「VO2」は酸素摂取量で、1分間あたりに消費された酸素の量のこと。
負荷を増やしてもVO2が増加しなくなった時点を最大酸素摂取量(V02max)としていますが、測定が困難なので最高酸素摂取量(VO2peak)が用いられています。最高値の判断は被験者にゆだねられるので、客観性には欠ける指標と言えます。

60%という強度に関しては、自分が出せる最高のパフォーマンスの60%くらいという認識でいいでしょう。
正確を期したい人は、最大酸素摂取量(V02max)を測定するためにクーパーテスト(12分間走)を行い、自動計算ツールなどで計算するのが早いかもしれません。

結論

その日だけ運動するより、長く続けることが大事です。
BDNFを増やしたいなら、有酸素運動の一択。
60%くらいの力で、30分間の自転車運動を週に3回、8週間やれば効果が期待できます。

なお、洛和会病院医学雑誌 Vol.28『「脳機能を高める分泌性タンパク質、脳由来神経栄養因子:BDNF」』によれば、強制された運動だった場合、ストレスにならない程度でないと、BDNFの増加は見られなかったようです。

また、血中BDNFレベルは、必ずしも脳内BDNF環境を反映したものではありません。
血中BDNFは拒食症患者で低下し、肥満者で増加するといった傾向も見られますので、ひとつの見方くらいに捉えていた方がいいかもしれません。

他に、適度な空腹時間の導入、脳神経の使用でも、脳内BDNFの産出増加を促せるようです。

BDNFを口から摂取、あるいは静脈注射による投与で増やせば早いと考える人もいるかもしれませんが、それでは血液脳関門を通れないので脳内の量は変わらないでしょう。

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BDNFの機能性

脳内BDNFが増加すると、以下のような変化がみられるそうです。

ポイント

・記憶力が向上する
・うつ病が予防、または改善される(気力の向上)
・糖や脂質の代謝が改善する
・食欲を抑制する
・脳卒中による脳傷害、後遺症が軽減する
・網膜を保護し、視力を増強する
・慢性疼痛を抑制する

逆に低下すると、上記とは逆の変化がみられるようになります。

気力に関しては、内側前頭前野に限定したBDNFの産出低下が気力の低下を示す、うつ病患者は前頭葉のBDNFmRNAレベルが特異的に低下していたといった報告があります。

マウスの実験では、うつ症状への抵抗性を示した個体は、脳皮質のBDNFが増加していて、ストレス後に低下しないことが明らかになっています。

つまり、うつ症状の発症に関与しているのは、脳皮質や前頭葉のBDNFである可能性が考えられます。

メモ

前世紀末は、BDNFの産出増加は神経毒性をもたらすと考えられていましたが、今世紀に入ってからは別の見解が示されるようになりました。もちろん、正常値を上回る産出の増加ではなく、適度な増加での話になります。

BDNFを増やす食品

BDNF自体を口から摂取しても、血液脳関門を通らないので、脳内BDNFは増えないと書きました。
運動による増やし方は既に書いた通りですが、抗酸化物質によってBDNFが発現しやすくなるという報告もあります。

チョコレート

愛知県蒲郡市、愛知学院大学、株式会社明治の産官学の共同で実施した大規模調査「チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究」によれば、高カカオチョコレートに含まれる高濃度カカオポリフェノールが、脳の血流量を増やして認知機能を高める可能性があるそうです。

「可能性がある」というレベルですし、チョコレートの明治が実施しているので、その辺は割り引いて考える必要があるかもしれません。

ちなみに、写真のチョコレートの原材料は、カカオマス、ココアパウダー、砂糖、ココアバター、乳化剤、香料となっています。

原材料は、その量が多い順に記載されていますので、カカオ分が多いチョコレートが欲しい人は、原材料の最初にカカオマスとあるのがいいでしょう。
乳化剤以降は添加物になります。食品原材料を多い順に書いた後、添加物を多い順に書くことになっています。

カカオ分が多いのは苦いだけで嫌、美味しくてカカオ分が多いのがいいという人には、クーベルチュールチョコレートをオススメします。
製菓原料用という意味もありますが、カカオマス、ココアパウダー、ココアバター、砂糖といったチョコレートの基本構成から成り、美味しい物が多いと個人的には思っています。

欧州はカカオバター30%以上、日本は植物性油脂が多いみたいな違いもありますので、脂や糖分が気になる方は原材料を要チェック。

カカオマス

カカオ豆を砕き、皮を取り除いたのをカカオニブと言います。
このカカオニブを炒って、すり潰したのがカカオマスです。
カカオマスをプレスすることで、ココアケーキとココアバターに分離します。
このココアケーキを砕いて、細かな粒子にしたものをココアパウダーと言います。いわゆるココアの粉です。
チョコレートは、カカオマスに、ココアパウダー、砂糖、ミルクなどを混ぜて作られます。

欲しいのはカカオの成分だけで、砂糖は摂りたくない人は、カカオ豆を食べるのはどうでしょう。
写真は、マヤカカオという食品です。

かじると、じわっとカカオ特有の苦みが広がります。
この苦味こそが、抗酸化作用を持つポリフェノールです。ポリフェノールは、紫外線によって発生する活性酸素を消すため、植物が身に着けた力。
その種類は、自然界に5,000種類以上と言われています。

赤ワインに多く含まれている印象が強いかもしれませんが、赤ワインのポリフェノール含有量は、コーヒーと同じくらいです。
「赤ワイン」=「ポリフェノール」の印象が強くなった理由は、「フレンチ・パラドックス」を調べればわかるかも。

葉酸

「葉酸(ようさん)」で増やすという意見も見ますが、その根拠になっているのは、ベースボールマガジン社の健康生活マガジン『健康一番 けんいち』11号の記事。

そこではNHKの「ガッテン!」で、葉酸を取り上げた「動脈硬化&認知症からカラダを守れ!」の回に触れ、番組内で認知症の予防に効果があるのは、葉酸がBDNFを増やす栄養素の一種だからとしています。

番組内では、BDNFという単語すら出ていませんが、もし葉酸を摂りたいのでしたら、以下の食品に多く含まれています。

鶏のレバー、ほうれん草、大豆、お茶、海苔、卵、豆苗など。
葉酸は水に溶けやすいので、茹でるよりも炒めたり、蒸したりする方が多く摂取できます。

葉酸の役割には、細胞分裂とホモシステインに対する働きがあります。
ホモシステインは必須アミノ酸「メチオニン」の代謝における中間生成物で、その代謝には葉酸・ビタミンB6・ビタミンB12が関与しています。

このホモシステインは、活性酸素を出して脳を萎縮させ、アルツハイマー病を引き起こす要因になっていると言われています。また、動脈硬化や骨粗しょう症の原因にもなるので、ホモシステインを代謝するために葉酸が必要というわけです。

葉酸の1日の摂取基準は240μgが推奨されていますが、これは貧血にならない目安なので、もっと多くてもいいと言われています。世界保健機関(WHO)的には400μgで、世界81ヵ国では穀類に法律で葉酸を加えているそうです。

BDNFの増加を助ける栄養素

ω-3脂肪酸は脳内で、セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質、BDNFに作用していることがわかっています。

ω-3脂肪酸は不飽和脂肪酸に分類される脂肪酸です。
代表的なω-3系脂肪酸は、αリノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)になります。

EPAとDHAは、脂肪の多い魚や貝類、甲殻類といった海産物に多く含まれています。
αリノレン酸は、体内で合成できない必須脂肪酸なので、食品から摂取する必要があります。

フラボノイドや亜鉛が、BDNFの受容体であるTrkBを活性化するという報告もあります。

α-ピネン

ヒノキの香り成分「α-ピネン」を嗅いだマウスの海馬では、BDNFの遺伝子発現レベルが上昇していたと、東邦大学のサイトに書かれています。
遺伝子発現レベルは、遺伝子情報からタンパク質が作られる程度のこと。この場合はBDNFが作られる頻度になります。

ストレスによって生じる脳内遺伝子の発現変化が、コーヒー豆の香りによって抑制されるという報告もありますので、BDNFを増やしたい方は『匂い』に着目するといいかもしれません。

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