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うつ病の原因遺伝子「SITH-1」と「ヒトヘルペスウイルス6」について

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「うつ病の原因遺伝子を発見」というニュースの解説です。

遺伝子と一口に言っても、発見されたのは「ヒトゲノム」ではなく、「メタゲノム」になります。
ヒトゲノムは、人間が持つ遺伝子情報。
メタゲノムは、人間に寄生している細菌やウイルスの遺伝子情報も含まれます。
なお、この文章を書いているのは、専門家ではありません。

どんな発見なのか

ヒトヘルペスウイルス 6(HHV-6)の潜伏感染はストレス応答を亢進させることで、うつ病のリスクを著しく上昇させる
東京慈恵会医科大学・ウイルス学講座・近藤一博
引用元:Human Herpesvirus 6B Greatly Increases Risk of Depression by Activating Hypothalamic-Pituitary -Adrenal Axis during Latent Phase of Infection 日本語解説

「東京慈恵会医科大学ウイルス学講座(http://jikeivirus.jp/)」によれば、上記の通り。
論文自体は英語で書かれているので、日本語解説から引用しています。

まず、「ヒトヘルペスウイルス 6(HHV-6)」についてですが、これはヒトに感染するヘルペスウイルスのうちの1つ。

1~3型は皮膚や粘膜に水疱を作る感染症、4~5型は伝染性単核球症、6~7型は突発性発疹と呼ばれる小児の感染症、8型は特定のがんなどを引き起こすと言われています。
伝染性単核球症は、咽頭炎、発熱、リンパ節の腫、疲労を引き起こす感染症。
いわゆる口内炎は、「単純ヘルペス1型(HSV-1)」に分類されます。

今回、関係しているのは「6型のB」です。
「HHV-6」の発見は1986年。旧名は、「Human B-Lymphotrophic Virus(HBLV)」でした。

HHV-6 は 1986 年に Salahuddin らによって AIDS 患者,リンパ腫の患者の末梢血から分離され,発見当初は B リンパ球親和性であるとして human B-lymphotropic virus と名付けられたが,その後 T リンパ球親和性である事が明らかとなり,human herpesvirus 6(HHV-6)と命名された
引用元:4.ヒトヘルペスウイルス 6 とヒトヘルペスウイルス 7(HHV-6, HHV-7)

上記の論文は2010年のものですが、そこには『HHV-6A に関してはその病態は未だ不明』とあります。探しましたが、「HHV-6A」の病態に関する情報は見つけられませんでした。

なので、先に書いた「突発性発疹」は、「HHV-6B」と「HHV-7」に関するものとしておきます。
また、突発性発疹は小児の感染症と書いたように、初感染は小児期。感染後は、生涯にわたって潜伏感染し続けます。
ほぼ100%の成人の体内に、この「HHV-6B」は潜伏感染していますが、基本的には存在しているだけ。ただ、生理的疲労に反応して再活性化する性質があります。

疲労には生理的疲労と病的疲労があり、このウイルスは病的疲労には反応しません。
生理的疲労は休息すれば回復するもの、病的疲労は休息しても回復しないものです。

生理的疲労に反応した「HHV-6B」は再活性化し、唾液中に出ていき、鼻腔から脳の一部である「嗅球」に到達。そこで潜伏感染します。
再活性化は、遺伝子がウイルスの形状になって増殖すること。その命令は「IE1」というタンパク質が出しています。

どうして、ウイルスが生理的疲労に反応できるのか……。
それは、「H6LT」というメッセンジャーRNAが疲労を測定するから。

話が長くなるのでメッセンジャーRNAの説明は省きますが、「H6LT」には仕事をしないタンパク質と先の「IE1」があり、普段は仕事をしないタンパク質の影響で、何もせずに潜伏できている状態となっています。

それが、「嗅球」に潜伏するようになると、「SITH-1」遺伝子とタンパク質を産出するようになります。
「SITH-1」は、細胞にカルシウムを流入させて「アポトーシス(細胞死)」を起こし、結果としてストレス因子が増加して、うつになる……。

そのことがわかったので、「SITH-1」は「うつ病の原因遺伝子」として“発見された”というニュースになったのです。

「SITH-1」の影響

先の論文によれば、「SITH-1」はヒトを12.2倍うつ病にしやすくするそうです。
また、うつ病患者の79.8%が、「SITH-1」の影響を受けているともありました。

しかし、どうやって「SITH-1」を検出できたのか。そう疑問に思う人もいるでしょう。
何せ、「SITH-1」が産出されるのは脳の一部である「嗅球」です。脳からサンプルを取るわけにもいかないので、他の方法があったはず。

ということで、改めて「SITH-1」の動きを振り返ります。
「SITH-1」は、細胞にカルシウムを流入させてアポトーシスを起こすのですが、カルシウムの流入は細胞のCAMLというタンパク質と結合し、「活性型SITH-1」となることで可能になります。
この「活性型SITH-1」に対する血液中の抗体を測定すれば、その発現を調べられるので、うつ病患者と健常者の「活性型SITH-1」抗体価がチェック可能になりました。
平たく言えば、採血だけで「SITH-1」の量がわかるようになったのです。

ここで注意したいのは、うつ病患者じゃない人でも「SITH-1」が発現したこと。
厳密に言えば、うつ病とは言えない程度の軽いうつ状態の人で発現していました。
言い換えれば、うつ病になりやすい人がわかるとも言えます。
実際、この方法を利用して“うつ病のなりやすさ”を調べる検査の実用化に向け、開発が進められているそうです。

ストレスとの関係

「SITH-1」は、結果としてストレス因子を増加させると、ストレスの原因になるようなことを書きました。

「ストレス(応答)」と「ストレッサー(ストレス源)」では意味が違うのに、一緒くたになって使われていると、参照元には書かれてありました。
それを踏まえたうえで、ストレスの役割を簡単に説明します。

例えば、痛覚は身体へのダメージを避けるために備わっていると考えると、ストレスは危機的状況を避けるために備わっていると考えられるでしょう。
もし、その機能がなくなれば、痛みを感じないが故に傷が広がり、ストレスを感じないが故に危険に突っ込むように……。

想像してみてください。
痛覚の無い人が熱いストーブに接したら、どうなるでしょう?
普通なら熱いと思って離れますが、何も感じないので そのまま。やがて、皮膚が焼かれていき、取り返しのつかないことに……。

ストレスにも、アラームとしての性質があります。

ただ、それが過多になっているので、忌避されているのが現状。
とはいえ、まったくストレスが無い状態だと、かえって疲労が強まります。
ここで言うストレスは、ストレス応答と呼ばれるもので、ストレッサーではありません。

ストレス応答が弱いと疲労が強くなるのは、ストレスには炎症性サイトカインを抑えるコルチゾールの働きがあるからです。

炎症性サイトカインは、タンパク質の一種。
これが脳に作用することで、疲労感が生まれます。
言うなれば、「疲れたから休め」という指示です。
限界を超えて休みなく動けば、機能がダウンしてしまうので、そのリミッターとしての役割でしょうか。

しかし、「疲れたから休め」という指示が出続ければ、その疲労感は消えないでしょう。
その疲労感から「何もやる気が出ない」状態になるかもしれません。

この「疲れたから休め」という指示は、『elF2α』という因子が『リン酸化elF2α』という物質に変化することで産出される炎症性サイトカインによるもの。
言うなれば、『リン酸化elF2α』が疲労を引き起こしているわけですが、『リン酸化elF2α阻害剤』を投与し、その動きを阻害することで疲れを感じなくなり、炎症性サイトカインも低下するのがわかっています。
それは、休むことを忘れ、動き続ける危険性を伴うでしょう。

ちなみに、体内には『elF2α脱リン酸化酵素』があり、その働きで『脱リン酸化』を果たし、疲労は回復するという仕組みになっています。
これが体内における「疲れたから休め」という指示のオン・オフです。

ストレスによって、コルチゾールとアドレナリンが分泌され、「働け」という指示になる。
心身への負荷によって炎症性サイトカインが産出され、「疲れたから休め」という指示になる。
このバランスによって、私たちは活動しています。

※ ストレス応答を使い果たしても、疲労感は強くなるそうです。

最後に

脚気はビタミン欠乏症の1つですが、以前はウイルスが原因だと考えられていました。
同じように、うつ病もヒトゲノムが原因と考えられていたとか……。

それと同じように、「今は、こう考えられている」ということも、後々になって別の考えが主流になることもあるでしょう。

人体には約2万種類のタンパク質があり、疲労に関係するのは5,000個以上あると聞きます。
そのうち、「SITH-1」の影響を受けていない うつ病患者の何らかの事実も、そこから明らかになるかもしれません。

余談ですが、「HHV-6B」に対するワクチン開発は、行われています。
⇒「ヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)に対するワクチン開発 ―HHV-6B糖タンパク質複合体のワクチン効果を証明―

また、そのレセプターはT細胞に発現しているCD134らしいです。

HHV-6Bの宿主レセプターは不明であり、長年、探し求めていましたが、2013年ついに我々はその宿主レセプターがヒトの活性化したT細胞に発現しているCD134であることを発見しました。
引用元:研究内容 | 臨床ウイルス学 神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター

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