『シュガーマンのマーケティング30の法則 お客がモノを買ってしまう心理的トリガーとは』という本の感想と、実践する場合の具体例です。
その内容をサイト運営に活かすなら、どうなるかという視点で書いています。
著者と本の概要
著者のジョセフ・シュガーマンを簡単に説明するなら、ショッピングチャンネル「QVC」で、サングラスを2,000万本以上売った人になるでしょうか。
JS&Aグループ、ブルー・ブロッカー・コーポレーション、デルスター・パブリッシング会長といった肩書きもありますが、本書における彼は電卓やサングラスを売るセールスマンです。
セールスマンとして、どのように商品を売ってきたのか。
それを30のエピソードで語っています。
実際にあったことを文章にしているので、自伝を読んでいるような気持ちになりました。
サラッと読めてしまったこともあり、「何かを得られた」というほど、記憶に残らなかったのが正直なところ。
なので、軽く内容を振り返りながら、感想を書いて理解しようとしているところがあります。
印象に残っている心理的トリガー
本書では、購入の決め手を心理的トリガーと表現しています。
心理的トリガーというと、理屈めいたメカニズムがあるように思えますが、本書では最初に「物を買う理由の95%は、無意識の決断」とあります。
「購入は考えて決めているから、無意識なんてことはない」と反論したくなる人もいるでしょう。
私も、手放しで全肯定する気はありません。
ただ、受動意識仮説を提唱する人がいるくらい、人の自由意思に疑問を呈する研究結果が出ています。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校、神経生理学教室のベンジャミン・リベット教授は、次のような実験をしました。
実験
1.被験者の脳に電極をつける
2.指を曲げるよう指示
3.曲げようと意識した瞬間と、曲がれという筋肉への指令が、脳の運動野で出た瞬間を計測
その結果、指を曲げようと意識するよりも、平均で0.35秒前に筋肉への指令が出ていました。
意識下の指令よりも、無意識下の指令の方が早い。
言ってしまえば、考えるよりも先に手が出る現象。それを実験で示したことになります。
「こんなケースでは、無意識に手が出る」といった具合に、物を買ってしまうことがあるのではないか。
心理的トリガーを、サイト運営に活かせるのではないか。
そういう視点で、内容を振り返っています。
一貫性の原理
注文の仕方を変えるだけで、同じ商品なのに値段が変わる話を元に、「一貫性の原理」について書いています。
端的に言えば、「買う」という決定を下した後は、別の要素が付加されても買うのをやめないこと。
言い換えれば、一度でも「買う」と言ってしまえば、その決意を揺るがすのは難しい。だから、容易に「買う」決意ができるものを最初のステップにし、ついでの購入を促すという内容になります。
これをウェブ上で行うとしたら、「5,000円以上お買い上げで送料無料」「この商品を買っている人は、次の商品も買っています」といったものが近い気がしました。
どちらも、何かを「買う」という意思決定の後、別の商品を買わせる効果があります。
アフィリエイトに取り入れるなら、「これを買うなら、これも持っておくといい」とか、「この商品と相性がいいのは……」といったレコメンドになるでしょうか。
適切なアピールポイント
隣人の急死キッカケで保険に加入する流れから、適切なアピールポイントに触れています。
突き詰めれば、商品を知ること。その商品を買う人を知ること。
楽しさが求められる玩具であれば、楽しさをアピールすべき。そんな話。
これは媒体に関係なく、基本と言えるものかもしれません。
顧客の特徴
社交クラブの会員獲得作戦から、感情的ニーズを探る重要性が語られています。
よく合理的ニーズを追求し、理詰めで売りにかかる人を見ますが、人の行動には感情が伴います。
人は、何かを買おうと思った後に、買う理由を探すもの。そんな心理的トリガーも、本書では紹介されています。
顧客の特徴を把握することで、商品との関連性がわかって感情に訴えやすくなります。
「カッコよくなれる」よりも「モテる」という表現の方が、彼女が欲しい男子高校生には響く。そんな感じのこと。
メモ
買うと決めた後に購入理由を考えるのは、「感覚」「理屈による正当化」という題で書かれていますが、その辺のことは省略します。
欠点の告知
自分の家を売りに出した経験から、いかにして欠点を伝えるかに言及しています。
悪いところを最後まで隠されていたら、相手に対して不信感を抱いてしまうもの。
欠点は最初に伝え、そのフォローをすることが大切です。
これはアフィリエイトに活かしやすい心理的トリガーだと個人的には思っています。
何かの商品を買う際に、欠点を調べるのはよくあることですし、ネガティブな情報の方が目につきやすいでしょう。
それは欠点を知らないまま買って後悔したくないからですが、その欠点をカバーできれば売れる可能性は高まります。
何より、ネガティブな単語は、キーワードとして効果的です。
アフィリエイトでは、公式サイトが最大のライバルとなることも少なくありません。
その点、ネガティブな単語は公式が強化しづらい傾向があるので、最大のライバルと競わずに済む利点があります。
例えば、銀が含まれる食品の公式サイトでは、自ら銀皮症の話題を出して消費者を不安にさせることは避けるので、そのキーワードを公式が強化することは少ないということ。
抵抗感の克服
通販番組でのアクシデントをうまく利用した事例を元に、商品の欠点を克服する大事さが説明されています。
とはいえ、欠点を完全に克服できないケースもあります。
その場合は、その商品の長所を前にすれば、短所など取るに足らないと思わせることが必要になるでしょう。
巻き込みとオーナーシップ
スペルミスを見つけた数だけ割引する広告といった例を出し、顧客を巻き込んでいくための仕掛け「インボルブメント・デバイス」などを書いています。
オーナーシップは、商品を所有している気分にさせるもの。
有り体に言えば、使用体験させること。
それが難しい場合は、使用感を想起させます。
ネット上で行うとしたら、使用者目線の動画や、感覚に訴えかける文章になるでしょうか。
手触りを伝えるのであれば、「商品の表面素材はXXを使用しているので云々」よりも「なめらかな手触り」の方が届きますし、「スベスベしている」といったオノマトペを使ったものが効果的でしょう。
誠実さ
強盗に逢った人が、その強盗は誠実だったと評価した話が載っています。
どの辺に誠実さを感じたのか、気になる方は読んで確かめてみてください。
内容的には、言行一致が最重要ということ。
ネットで言うなら、「オススメ」と絶賛しているのに、買ってない奴はダメだみたいな話。
「信頼性・信憑性」という心理的トリガーでも、似たようなことが書かれていますが、そちらは信頼できる人が用いる言葉、その商品に詳しい人だと思える話し方について言及しています。
「具体性」という心理的トリガーもあり、こちらは具体的な数字を出すことで、信憑性が増した例が挙げられています。
物語
実際に商品を使用した人の話を通して、その商品の魅力を伝えることが書かれています。
「進研ゼミの漫画」と言えば、わかりやすいでしょうか。
やっていることは、それです。
権威
パソコン選びや陸軍時代の掲示板を例に、人が権威に弱いことを指摘しています。
例を挙げれば、パソコンに詳しくない人は、購入時に詳しい人のお墨付きが欲しい。専門的な人のアドバイスを受け、自分のチョイスが間違っていないと確信したい。そういった権威にすがる気持ちが説明されています。
美味しさを示す賞ではないのに、モンドセレクション受賞とあれば、「美味しい」と思って買ってしまう。そんな話のように受け取れます。
ネット上でよくあるのは「XX大学教授 推薦」といった文言でしょうか。
大学がピンキリなように、教授だってピンキリです。
役に立たない研究をしている人もいますし、トンデモ理論の提唱者もいます。一昔前に流行し、今は根拠が乏しいとされるダイエット法も、どこかの大学教授が推していた事実があるもの。
詐欺まがいのことはしたくないですが、受賞歴や上場企業との関係性、地位がある人の推薦といった権威付けで、商品のアピール度は変わってしまいます。
お買い得感
有名スターが宣伝している商品は、そのスターに支払う費用があるので高くなる。そんな切り口の広告を例に、お買い得感をアピールする重要性が語られています。
人は「安いのには訳がある」と思うので、その理由を用意してあげることが大切です。
宣伝費用をかけていないので安いというのは、無名の商品を売るのに最適な理由と言えます。商品自体にデメリットは無く、それ以外の部分でコストダウンしていると伝えられるからです。
似たようなケースに、中抜きをしているから安いというのもあります。
こうした安い理由をうまく伝えられないと、安かろう悪かろうと思われることも……。
高ければいいと思い、中身が同じワインでも、値札が高い方を美味しいと感じる。そんな実験結果があります。ヴェブレン効果と言われるものです。
その辺のことは「強欲」という心理的トリガーでも触れています。
切迫感
「いつか買う」「また今度」といった心持ちでは、「いつか」も「今度」もやってきません。
だから、ここで買わなきゃいけないと思わせるのが重要です。
イベント商品は特定の時期に必要だから、「買わないと間に合わない」と思って買います。
それ以外の商品の場合、時間的な切迫感が無いので、演出する必要があります。
よくある例としては、通販番組が終了してから30分以内なら特別価格というもの。
「今、それを買う理由」を作ることで、「後で買う」も「よく考えてみて」も封じるのです。
ネットでは、タイムセールなどが当てはまるでしょう。
その他の心理的トリガー
すべての心理的トリガーについて書くと、かなりの長文になると思い、残りは簡単に説明します。
満足の確約
返品制度の効果を例に、「買っても損をしない」というアピールの重要性が説かれています。
リンキング
消費者が既に知っている知識と、商品を結び付けるテクニックをリンキングと言います。
既に知っている知識で説明されれば、商品の理解も深まるし、早いというもの。
帰属欲求
特定のブランド品を買うことで、その所有者の仲間入りをしたいという欲求です。
収集欲求
いわゆる収集癖です。
限定
レアな物を持ちたいという動機です。
人とは違うものを持ちたいというスノッブ効果もあるかも。
単純明快さ
種類が豊富だとアピールするより、「これがベスト」と言われる方が、選ぶ手間が省けていいこともあります。
ネットでよく見るのは、ランキングによる商品選択でしょうか。
罪悪感
心理的トリガー名が「罪悪感」となっていたので、そう書いていますが「返報性の原理」のことです。
何かをしてもらったら、返さなくてはいけない。
その心理を利用した戦術として、プレゼント付きのダイレクトメールの話が書かれています。この辺のことは、『影響力の武器』という本の方が詳しいように思います。
親近感
馴染みがあるものを選んでしまうという話です。
この親近感を得るために宣伝する、同じデザインで通していることもあるでしょう。
ネットで親近感を得るとしたら、顔出し動画で語り掛ける、ステップメールを毎日のように送って、文通している気分にさせるといった手法があるでしょうか。
パターンニング
成功者の模倣です。
他者の優れている点を研究して、やり方を真似て自分のものにし、手を加えることを言います。
期待感
当たるかもしれないという期待があるから、人は宝くじという統計学的に損をする商品を買います。
それだけ、期待という感情が購入動機として大きいという話。
「これを買えば問題解決」「この商品を購入したことで、幸せになっている姿を想像して」といった文句で、セールスする行為に通じるものがあります。
好奇心
サングラスをかけると見える世界は、サングラス越しの映像で伝えられます。
でも、そうせずにサングラスをかけた人の反応を伝えることで、「かけたら、どんな世界が見えるのだろう」という好奇心を刺激し、購入に至らせたケースを紹介しています。
ネットで言うなら、タイトルで興味を引いたり、ページの冒頭に続きが気になる文言を入れ、スルーされないよう工夫するのが近いでしょうか。
市場とのマッチング
需要が無い物は売れないし、アピールすべきは需要がある要素だけ。そんな話になります。
考えさせる力
思考、直感、感覚、感情を刺激すること。
説明し過ぎずに、相手に考える余地を残せば、適度な刺激を脳に与えられるそうです。
正直さ
嘘偽りのない情報であること。
まとめ
上記のことを踏まえると、まずは「欠点の告知」をしているタイトルで集客し、ページ冒頭で答えを提示します。
タイトルに対する答えを最初に伝えることで「抵抗感の克服」を行い、「返報性の原理」で言うところの“与えた状態”に持っていきます。「欲しければ与えよ」です。
もちろん、答えだけでは納得できないので、その理由をわかりやすく説明する必要があるでしょう。
その際には、相手の知識と説明を結びつける「リンキング」や、詳しい人が使うべき言葉による「信頼性・信憑性」と数字による「具体性」を意識します。
ここから、そのことを知りたいと思っている人は、どんな人なのかを考えたうえで、商品のアピールに入っていきます。
正確には、商品を買うことで訪れる未来のアピールかもしれません。
「顧客の特徴」を踏まえ、商品が何らかの「帰属欲求」や「収集欲求」に該当するのか、「限定」「親近感」「期待感」といった要素はあるのか見極め、「適切なアピールポイント」で話を展開します。
その内容は「巻き込みとオーナーシップ」を意識し、商品を手にした気分にさせることが重要。場合によっては、使用者の体験談という「物語」を導入します。
気持ちが買う方向に傾いたら、購入の障壁となるものを消していきます。
購入は間違っていないというお墨付きになる「権威」を見せつけ、「お買い得感」をアピールし、すぐに買うべき理由で「切迫感」を演出して、返品できるという「満足の確約」をします。買わない理由を潰すのです。
商品の良さに「単純明快さ」が足りないのであれば、ランキングでわかりやすくするといいでしょう。
あの手この手で「買う」という決定に繋げられれば、一緒に買うべきものもアピールしやすくなります。「一貫性の原理」です。
一度でも「はい」と言わせてしまえば、二度目の「はい」は言いやすくなる。だから、「買ってください」の前に、「いい天気ですね?」「はい」というやりとりから入り、「買ってください」という手法もあるくらい。
ただ、こういった手法を取ったとしても、相手に見透かされるようなら逆効果。
売るためのテクニックも大事ですが、「誠実さ」や「正直さ」は良いセールスマンにとって不可欠の資質。
まずは、好ましいと思える人物のサイトを「パターンニング」することからスタートするといいかもしれません。
とまぁ、無理矢理に心理的トリガーを詰め込むと、こんな感じになるでしょうか。
すべてのトリガーを拾えたわけではないですが、ウェブ上で何かを売りたいのなら、自分が何かを買った体験をもとに、アレンジしていくのが近道かもしれません。