「反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法」が、2019年6月に保険適用されたことを受け、軽く調べて まとめたのが当ページです。
主に、論文から情報を得ています。
薬物療法や認知行動療法などの精神療法に次ぐ、“第3”のうつ病治療法が2019年6月からいよいよ保険適用となる。磁気刺激を与えて神経細胞を刺激する反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)だ。
引用元:うつ病治療“第3”の選択肢、保険適用へ:日経メディカル
※ 「rTMS」は「repetitive Transcranial Magnetic Stimulation」の略。医療機関では、「TMS治療」とだけ書かれているので、当ページでもTMSと省略しています。
磁気刺激治療とは
平たく言えば、頭の上にコイルを持ってきて磁場を形成し、過電流による刺激で脳の働きを活性化する治療です。
うつ状態では、脳内の特定部位の働きが落ちているので、それを改善するといった説明が多いでしょう。
とはいえ、『治療メカニズムは、十分に解明されていない』ので、「なぜ、それが効くのか」は説明できません。
ただ、うつ病に対して薬物治療と同程度の抗うつ効果を示し、重篤な有害事象が確認されなかったので、2008年10月に「FDA(アメリカ食品医薬品局)」が承認した経緯があります。
FDAは、日本で言うところの厚生労働省みたいなもの。
食品や医薬品を販売するにあたり、許可を出している機関です。
この記事を書いている時点では、ワクチン開発関連のニュースで、その名前を耳にする機会が多い気がします。
治験のフェーズが1~3まであり、どこまで進んでいるか、クリア後にFDAの承認が下りるのかといった感じで……。
薬に関して言えば、その種類は多いほど良いでしょう。
単純に、選択肢が増えるからです。
「唯一の薬が効かなかった。もう打つ手はない」より、「あの薬は効かなかった。じゃ、ほかのを試そう」の方が良いというだけの話。
なので、「重篤な有害事象」さえなければ、できるだけ承認したい……。
そういった事情は、磁気刺激治療にも当てはまるでしょう。
磁気刺激治療の効果
先に、薬物治療と同程度の抗うつ効果があると書きました。
それを具体的な数値で示すと、「effect size.(効果量):0.39」になります。
抗うつ薬全体の効果量は「0.31」なので、8%高いと言えますね。
よく、抗うつ剤が効くのは3割程度というのは、この数値からでしょう。
なお、このデータは、2012年発行の精神神経学雑誌 第114巻 第11号「反復性経頭蓋磁気刺激法によるうつ治療」によるものです。
数百回以上のTMS刺激を続けると、刺激終了後も効果が持続するそうなので、一時的な効果でないことも明記しておきます。
しかし、保険適応されるのは「難治性うつ病」のみ。
あくまで、抗うつ剤が効かなかった人用……。
そんな風に書かれていることも多いでしょう。
その根拠となる文言は、厚生労働省の資料にあります。
I000-2 経頭蓋磁気刺激療法 1,200点
注 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、薬物治療で十分な効果が認められない成人のうつ病患者に対して、経頭蓋治療用磁気刺激装置による治療を行った場合に限り算定する。
引用元:精神科専門療法
『薬物治療で十分な効果が認められない成人のうつ病患者』という一文がそれです。
また、1,200点とあるので、「1点=10円」換算で費用の基準もわかります。
※ 抗うつ剤を充分に使っても効果がない、または抗うつ剤を使えないケースは、治療抵抗性うつ病と書かれていることもあります。
とある医師の見解
その辺を通院先の医師に訊いたところ、少し違った回答が得られたので、書いておきます。
「保険の適用は、ぶっちゃけ医師の判断次第」
「TMSは、生命の危機にある人に使うと、劇的によくなる」
そうは言っても、磁気刺激治療に必要な機材、例えば「MAGSTIM200」「NeuroStar TMS 治療装置」がない医療機関も少なくないので、選択肢として無い人も多いでしょう。
地方などは、どこかが導入すれば「〇〇地域では、初」というニュースが出るくらいですからね……。
機器について
その機器ですが、一口にコイルと言っても、種類があります。
「円形コイル」「8の字コイル(ダブルコイル)」「ダブルコーンコイル」などがあり、見た目からして違います。
製造している「ミユキ技研」のサイトに行けば、その形状を確認できるでしょう。
使用する場合の総パルスは、5,000が上限となっているはず。
刺激を強くすれば、効果が上がるわけでもないので、必要以上に上げる意味は ありません。
以下は、「公益社団法人 日本精神神経学会」のサイトにある Neuronetics 社 NeuroStarの使用基準です。
うつ病患者の左背外側前頭前野に 120% 運動閾値(安静時)、10Hz、3,000 パルスの刺激を1 日に 1 セッション行い、週 5 セッションをめやすに 20 セッション(4 週間)から 30 セッション(6 週間)行う。
引用元:平成29年度 新医療機器使用要件等基準策定事業(反復経頭蓋磁気刺激装置)事業報告書
上記の通り、刺激の目安があります。
一方で、『統一された治療プロトコルが存在しない』という記述を、論文で見かけることも……。
単純に、書かれた時期が古いのかもしれません。
次に、具体的な時間に関して。
「磁気刺激法の臨床応用と安全性に関する研究会」の資料によれば、「1回の治療時間は37分30秒」くらいだとか。
左背外側前頭前野への高頻度刺激の標準的な刺激条件は、刺激頻度10Hz、刺激強度120%MT、刺激時間4秒、刺激感覚26秒であり、1日刺激回数は3000回、1回の治療時間は37分30秒となる。この刺激を週に5日間、合計4週間から6週間施行することが一般的である
引用元:第25回 講演集 磁気刺激とうつ病
機器が「どのような原理で、作用をもたらすのか」は、個人的に得意な分野ではないので、説明は避けておきます。
ファラデーの電磁誘導の法則とか、そういった類の話です。
話だけ見ると、磁気ネックレスに近いものを感じますね。
詳しくは、TDKの「磁気治療器と磁石」の説明ページにて。
→ 「磁気治療器と磁石」
抗うつ効果発現機序については、最初に『治療メカニズムは、十分に解明されていない』と書いた通り、わかっていません。
ただ、仮説のようなものはあります。
抗うつ剤の作用点が科学シナプスであるのに対し、TMSはニューロンの中で最も興奮閾値の低い軸索がメイン。
そこが過電流で直接的に刺激されていると考えられる……。
聞いたところでピンときませんが、作用する箇所が薬と違うので、結果も違うのは想像に難くありません。
あくまで、“考えられる”だけなので、立ち位置的には「モノアミン仮説」のようなものでしょう。
-
モノアミン仮説は嘘なのか|矛盾による否定と新説
うつ病の原因として挙げられるのは、性格によるものだとする病前性格説、神経伝達物質の不足だとするモノアミン仮説、脳由来の神経栄養因子の不足だとするBDNF仮説など。 最近では、脳内炎症による神経細胞の機 ...
続きを見る
現象として測定できる変化としては、BDNFが増加するという報告があります。
-
脳由来神経栄養因子(BDNF)の増やし方|脳の病気との関係
「モノアミン仮説」について調べたページで、「脳由来神経栄養因子(BDNF)」の不足によって、神経が成長できずにモノアミンが減るという説を取り上げました。 モノアミンは、ドーパミン、ノルアドレナリン、ア ...
続きを見る
副作用
とある実験では、施行した18名のうち15名が完遂、2名は痛みのため脱落、1名は同意を撤回したそうです。
実際に治療の受けた人の口コミは、医療機関名などで検索した後、「Google のクチコミ」などで確認できるかも。
この治療の対象者は、DSM-Ⅳ-TRの大うつ病性障害の診断基準に合致する20~70歳の患者となっています。
※ 「頭部外傷」「妊婦」「けいれん誘発のリスクが高いてんかん」「体内埋め込み式医療機器(ペースメーカーなど)」に当てはまる人は、対象外。
頭の大きさ
頭の大きさには、個人差があります。
それによって治療に差が出るんじゃないか……。
そう思っても仕方ありません。
その辺を調べたところ、赤外線や超音波を用いたフレームレスのニューロナビゲーションシステムで、頭部とコイルの位置関係を計算してから実行するようです。
頭などを調べてから やるわけですね。
基本的には「5cmルール」というのがあり、コイルと頭の距離は5cm程度あるはず。
もちろん、そういう記述があったというだけなので、どの医療機関も必ずそうだと保証するものでは ありません。
最後に
簡単にまとめると、まずは薬による治療があり、その効き目が見られない重度の人が、対象となる可能性が高い治療方法です。
薬が効く人と効かない人がいるように、TMSが効かないことも十分にあり得ます。
また、全国レベルで普及しているとは言い難い状況ですし、身体の状態によっては利用できないこともある……。
そんなところでしょうか。
個人的には、使う条件を満たしていないので、あまり興味を持てないのが正直なところ。
余談ですが、TMSは うつ病以外にも用いられています。
例えば、アスペルガー症候群など……。
下の本は、そのアスペルガー症候群の方の体験談になります。